先日、あるニュース記事を読んで、税理士として深く考えさせられました。年収1500万円の夫婦が、毎月11万円以上の赤字を出し続け、貯蓄がまったくできていないという相談事例です。原因は保険料──月換算で16万5000円、保険契約は13本にも及んでいました。
表面的に見れば「保険の入りすぎ」という単純な話です。しかし、私はこの事例の本質は別のところにあると思っています。それは、「断れない関係性の中で、本来必要のない契約を重ねてしまった」という人間関係の問題です。そしてこれは、税理士という仕事の本質にも深く関わる話だと感じています。
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保険が13本になった理由──それは「義理」だった
記事によれば、この夫婦が加入した保険のほぼすべてが、知り合いや親戚からの紹介でした。友人から外貨建て保険、元上司からがん保険、妻の友人からは個人年金保険や終身保険、親戚からは学資保険……。
「断るのも悪いかなと思って、気づいたら13本になっていました」
この言葉に、すべてが詰まっています。
彼らは保険という商品が必要だったわけではありません。断れなかったのです。人間関係を壊したくない、義理を欠きたくない、相手に悪く思われたくない──そうした思いが積み重なった結果が、月16万円超という異常な保険料負担でした。
私はこの構造を見たとき、税理士という仕事の本質的な価値を改めて考えさせられました。
税理士の本質は「最初に相談される存在」であること
私は常々、税理士とは数字を処理する人ではなく、「最初に相談される存在」であるべきだと考えています。
経営者が何か困ったとき、迷ったとき、不安を感じたとき──そのときに最初に頭に浮かぶのが税理士である。それが理想だと思っています。なぜなら、税理士は経営者の数字を見ながら、その人の状況を最も深く理解できる立場にいるからです。
もしこの夫婦に、信頼できる税理士や家計の相談相手がいたら、どうだったでしょうか。
「知り合いから保険を勧められているんだけど、入ったほうがいいかな?」
そんな相談が、保険契約の前にできていたら。あるいは、3本目、5本目の契約をする前に、誰かが家計全体を見て「ちょっと待ってください、これ以上は危険です」と言えていたら。
きっと、こんなことにはならなかったはずです。
専門家は「断る理由」を代弁できる存在である
この夫婦が本当に必要としていたのは、保険そのものではありません。「断る理由」だったのではないでしょうか。
人間関係の中で断るのは、本当に難しいことです。特に地方都市や、人間関係が濃密な地域では、なおさらです。義理の兄弟、親戚、友人──関係が近ければ近いほど、断ることに罪悪感を覚えます。
でも、もし信頼できる専門家が隣にいて、こう言ってくれたらどうでしょう。
「今の家計状況では、新しい保険に入る余裕はありません。むしろ今ある保険も見直したほうがいいくらいです」
それは、専門家としての客観的な判断です。本人ではなく、第三者が言う言葉だからこそ、断る理由として成立します。
私は税理士として、こうした「断る理由を提供する役割」も非常に重要だと思っています。節税商品の勧誘、融資の提案、新規事業への誘い──経営者の周りには、さまざまな「売り込み」が常に存在します。その中で、冷静に判断し、必要であれば「今はやめておきましょう」と言える存在が必要なのです。
信頼関係があるから、相談の起点になれる
ただし、こうした役割を果たすには前提があります。それは「信頼関係」です。
税理士が形式的な業務だけをこなし、年に一度決算書を作るだけの関係であれば、こうした相談は生まれません。保険の話も、家計の話も、人間関係の悩みも、すべて税理士の業務範囲外だと思われてしまうからです。
でも、もし税理士が「何でも相談できる存在」として認識されていたら、話は変わります。
「ちょっと聞いてもらいたいことがあるんですけど……」
そんなふうに、気軽に声をかけてもらえる関係。それが、顧問契約の本質だと私は思っています。顧問契約とは、単なる業務契約ではありません。信頼されていることの証明であり、相談の起点となる関係性そのものなのです。
専門性だけでは差別化できない時代
この事例を見て、もうひとつ強く感じたことがあります。それは、「専門性だけでは、もはや差別化できない」という現実です。
保険の見直しは、ファイナンシャルプランナー(FP)の専門領域です。でも、この夫婦が本当に必要としていたのは、保険の知識ではなく、「誰に相談すればいいかわからない」という状態から抜け出すことでした。
つまり、相談の入口に立てるかどうか。そこが、専門家としての価値の分かれ目なのです。
税理士も同じです。税務の知識、会計の技術──それらはもちろん必要です。でも、それだけでは選ばれません。大切なのは、「この人なら、何でも相談できる」と思ってもらえるかどうか。そのためには、思想や理念、人としての信頼感が必要です。
私は、税理士の本質は「課題解決の起点となること」だと考えています。自分の専門外のことでも、まず相談を受け止める。そして必要なら、他の専門家をつなぐ。それが、税理士の真の価値だと思っています。
数字だけでなく、人を見る
この夫婦の家計を見て、もし私が相談を受けていたら、まず最初に聞くことは「なぜ、これだけ保険に入ったのか?」ということです。
数字だけを見れば、「保険料が高すぎるから削りましょう」で終わります。でも、その背景には必ず理由があります。人間関係、不安、価値観、過去の経験──そうしたものが積み重なって、今の家計ができているのです。
だからこそ、数字だけでなく、人を見る必要があります。その人がどんな思いで生きているのか、何に価値を置いているのか、どんな不安を抱えているのか。それを理解しようとする姿勢がなければ、本当の意味での課題解決はできません。
税理士とは、数字を扱う仕事です。でも、数字の向こう側には必ず人がいます。その人の人生があり、家族があり、思いがあります。それを忘れてしまったら、税理士は単なる「数字の処理屋」になってしまいます。
私は、そうはなりたくありません。
経営者の背中を押す存在でありたい
この夫婦が保険を見直すとき、きっと勇気が必要だったと思います。なぜなら、それは契約を解除するという事務的な作業ではなく、人間関係に向き合うことを意味するからです。
「あの人に悪いな」「断ったら、どう思われるだろう」
そんな葛藤があったはずです。
でも、FPの方が1年半かけて粘り強く伴走し、最終的に黒字転換に成功しました。それは、専門知識だけでなく、人としての信頼関係があったからこそだと思います。
私も、税理士としてそうありたいと思っています。経営者が迷ったとき、不安を感じたとき、背中をそっと押せる存在でありたい。リスクは正しく伝える。でも、最終的な判断は本人に委ねる。そして、どんな選択をしても、一緒に歩む。
それが、私の考える税理士の姿です。
まとめ──信頼される存在であり続けるために
年収1500万円でも貯蓄がゼロ。この事例は、収入の高さと家計の健全性は別物だということを教えてくれます。そして同時に、「相談できる相手がいるかどうか」が、人生の分岐点になることも示しています。
税理士として、私が大切にしたいのは、「最初に相談される存在」であり続けることです。そのためには、専門知識だけでなく、人としての信頼を積み重ねることが必要です。
数字を見るだけでなく、人を見る。 業務をこなすだけでなく、関係を築く。 答えを押しつけるのではなく、背中を押す。
そんな税理士でありたいと、改めて思いました。
もし今、あなたの周りに「相談できる専門家」がいないのであれば、ぜひ探してみてください。そして、もしあなたが専門家を目指しているのであれば、「相談される存在」を目指してほしいと思います。
それが、本当の意味でのプロフェッショナルだと、私は信じています。

