財務省と金融庁が2027年度の税制改正要望で、個人向け国債の税制優遇を検討しているというニュースが流れました。相続税の減免やNISAの対象化などが議論されているようですが、税理士として多くの経営者や個人の資産形成を見てきた立場から言わせていただくと、この施策には大きな温度差があると感じています。
結論から申し上げます。国債がNISAの対象になったとしても、そのインパクトは極めて小さいでしょう。一方で、相続税の減免対象になれば、話は大きく変わります。これは単なる税制の違いではなく、国民が本当に求めている支援の本質を理解しているかどうかの違いなのです。
今回は、この温度差がどこから生まれるのか、そして本当に意味のある税制優遇とは何かを、税理士としての実務経験を踏まえてお話しします。
なぜNISA対象化では響かないのか
まず、個人向け国債がNISAの対象銘柄になったとして、どれだけの人が飛びつくでしょうか。私は正直、ほとんど反応はないと思っています。
その理由は明確です。NISAを活用している層は、そもそも国債のような低リスク・低リターンの商品を求めていないからです。
NISAという制度の本質を考えてみてください。この制度は「運用益が非課税になる」というメリットを提供しています。つまり、運用益が大きければ大きいほど、非課税の恩恵も大きくなる仕組みです。だからこそ、NISA口座では株式や投資信託といった、ある程度のリターンが期待できる商品が選ばれているわけです。
一方で、個人向け国債はどうでしょうか。確かに元本保証があり、安全性は抜群です。しかし、その分利回りは控えめです。長期金利が上昇しているとはいえ、株式投資や投資信託と比べれば、運用益は限定的です。
運用益が小さければ、非課税になるメリットも小さい。これは当然の帰結です。
さらに言えば、NISAを積極的に活用している方々は、資産形成に対して比較的前向きで、リスクを取ることにも慣れています。そういった層が、わざわざNISA枠を使って国債を買うかと言えば、答えは明白です。おそらく選ばれないでしょう。
つまり、国債をNISA対象にしても、制度としての整合性が取れていないのです。国債を買いたい層とNISAを使いたい層がそもそもズレている。これでは施策として機能するはずがありません。
相続税減免なら話は別だ
では、相続税の減免対象になったらどうでしょうか。私はこちらであれば、大きなインパクトがあると確信しています。
なぜなら、相続税対策は、資産を持つ多くの方にとって切実な課題だからです。
私は税理士として、日々さまざまな経営者や資産家の方と相続の話をします。その中で感じるのは、「いかに次の世代に財産を残すか」という思いの強さです。相続税は決して小さな負担ではありません。特に不動産や事業資産を多く持つ方にとっては、納税資金の確保自体が大きな課題になります。
もし個人向け国債が相続税の減免対象になれば、どうなるでしょうか。
例えば、相続財産のうち国債で保有している部分については評価額を減額する、あるいは一定割合を非課税にする、といった措置が取られたとします。そうなれば、資産家層は積極的に国債を購入する動機が生まれます。
理由は明確です。現金で持っていても、国債で持っていても、流動性に大きな差はありません。むしろ国債の方が利息も付きます。それでいて相続税が軽減されるなら、選ばない理由がないのです。
さらに言えば、相続対策というのは長期的な視点で考えるものです。国債は安全資産であり、長期保有にも適しています。相続までの期間、安全に資産を保全しながら税負担を減らせるというのは、極めて合理的な選択肢になります。
これは国民のニーズと制度設計が合致している好例です。
政府は誰のために制度を作っているのか
ここで一つ、本質的な問いを投げかけたいと思います。
今回の税制優遇は、果たして「国民のため」なのでしょうか、それとも「国債を売りたい政府のため」なのでしょうか。
もちろん、政府の立場も理解できます。日銀が国債保有を減らしている今、新たな買い手を見つける必要がある。それは財政運営上、避けられない課題です。
しかし、だからといって国民にとって実効性の乏しい施策を打っても、意味がありません。NISA対象化のように、制度と商品の性格がズレている施策では、結局誰も動かないのです。
一方で、相続税減免のように、国民が本当に求めている支援と政府の目的が一致する施策であれば、双方にメリットがあります。国民は税負担が減り、政府は国債の買い手が増える。これこそがWin-Winの関係です。
税理士として多くの方の資産や事業を見てきて感じるのは、良い制度とは、国民の実態に即したものでなければならないということです。
机上の空論や、表面的な「優遇っぽさ」だけでは、誰も動きません。本当に必要とされている支援は何か、どこに課題があるのか。それを見極めた上で制度を設計しなければ、税制はただの飾りになってしまいます。
税理士としての役割は、現場の声を届けること
私たち税理士は、数字を扱う専門家であると同時に、経営者や個人の最も近くにいる相談相手でもあります。
だからこそ、こうした制度改正の議論においては、現場で感じているリアルな声を届けることが重要だと思っています。
「この制度、実際には使われないだろうな」
「これなら本当に助かる人が多いだろうな」
そういった肌感覚を持っているのは、日々お客様と向き合っている私たちです。
今回の個人向け国債の税制優遇についても、NISA対象化と相続税減免では、まったく異なる反応が予想されます。前者はほとんど動きがないでしょうし、後者は大きなインパクトを生むはずです。
その差は、国民が何に困っていて、何を求めているかを理解しているかどうかの差です。
国民目線の税制改正を期待したい
最後に、私の願いを述べさせてください。
税制というのは、国の形を作る重要な仕組みです。誰に負担を求め、誰を支援するのか。その選択が、社会のあり方を決めます。
だからこそ、税制改正は常に「国民のため」でなければなりません。政府の都合だけで制度を作っても、現場では機能しないのです。
個人向け国債の税制優遇についても、ぜひ実効性のある形で議論を進めていただきたいと思います。表面的な優遇ではなく、本当に国民が必要としている支援を。そして、それが結果的に国債の安定消化にもつながる。そんな制度設計を期待しています。
私たち税理士は、これからも現場の声を拾い、発信し続けます。なぜなら、税制は国民一人ひとりの生活に直結するものだからです。
今回のニュースを見て、改めてそう感じました。皆さんも、ぜひこの議論に関心を持っていただければと思います。

