はじめに:閣議決定された方針の本質
令和8年7月21日、政府が閣議決定した「骨太の方針2026」。その中に、私たち税理士や経営者が見逃してはいけない重要な方向性が示されました。それが「給付付き税額控除」の導入検討です。
この制度、正直に言って「また新しい制度か」と思われる方も多いでしょう。ですが、私はこの方針が、今後の日本の税制、そして経営者の皆さんの資金繰りや事業計画に大きな影響を及ぼす可能性があると考えています。
なぜなら、これは単なる「節税策の追加」ではなく、税と社会保障の構造そのものを変えようとする動きだからです。
「給付付き税額控除」とは何か?
そもそも「給付付き税額控除」とは、所得税額から一定額を差し引き、もし税額がゼロやマイナスになった場合、その差額を現金で給付する仕組みです。
たとえば、年間の所得税額が5万円の人に対して10万円の控除が適用されたとします。従来の控除では5万円が引かれて終わりですが、給付付き税額控除では、残りの5万円が現金で給付されるのです。
つまり、所得が低い人ほど恩恵を受けやすい制度であり、従来の所得控除とは性質が大きく異なります。
私は、この仕組みが導入されることで、「税制の公平性」や「再分配機能」といった視点が、これまで以上に重視される時代に入っていくと見ています。
なぜ今このタイミングで?──社会保障と税の一体改革
骨太の方針では、「社会保障と税の一体改革の推進」という大きな柱が掲げられています。そして、給付付き税額控除は、その中核的な政策として位置づけられています。
日本は少子高齢化が進み、社会保障費が年々膨らんでいます。一方で、現役世代の負担はすでに限界に近づいている。この矛盾を解決するために、政府は「給付と負担のバランスを見直す必要がある」と判断したわけです。
私がこの方針を見て感じたのは、政府がようやく、税制を”成長型経済”に合わせて再設計しようとしているということです。
これまでの日本の税制は、高度経済成長期に作られた仕組みが色濃く残っていました。ですが、働き方が多様化し、非正規雇用や個人事業主、フリーランスが増えた今、旧来の仕組みでは対応しきれなくなっているのです。
給付付き税額控除は、その「ズレ」を埋めるための一手だと、私は捉えています。
経営者にとっての影響:何が変わるのか?
では、この制度が導入されると、経営者の皆さんにどんな影響があるのでしょうか。
①従業員の手取りが変わる可能性
もし給付付き税額控除が実施されれば、低所得層の従業員の手取りが増える可能性があります。これは、従業員のモチベーション向上につながる一方で、企業側の給与設計にも影響を与えるかもしれません。
たとえば、「給与を上げなくても、制度で補われるから大丈夫」という発想は危険です。なぜなら、従業員が求めているのは「会社からの評価」であり、制度による給付はあくまで補完的なものだからです。
私は、経営者として「制度に頼らない賃金設計」を考えることが、これからますます重要になると考えています。
②社会保険料負担の議論が加速する
骨太の方針では、「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」とも明記されています。
これは、給付付き税額控除とセットで考えるべき話です。つまり、税制で再分配を強化する代わりに、社会保険料の負担を軽くする方向に舵を切ろうとしているのです。
経営者にとって、社会保険料負担は非常に重い問題です。特に中小企業では、人件費の中で社会保険料が占める割合は無視できません。
もしこの方針が実現すれば、企業の負担が軽減され、その分を従業員への還元や設備投資に回せる余地が生まれるかもしれません。ただし、それが実現するまでには時間がかかるでしょうし、制度設計次第では逆に負担が増える可能性もあります。
だからこそ、私たち税理士は、こうした政策の動向を常にウォッチし、経営者に対して先回りして情報を提供する役割を果たすべきだと考えています。
③消費税率との関係──「飲食料品の税率」に注目
方針の中には、「給付付き税額控除のつなぎ(飲食料品の消費税率等)」という記述もあります。
これは、軽減税率や消費税率の見直しが、給付付き税額控除とセットで検討される可能性を示唆しています。
もし飲食料品の税率が変われば、飲食業や小売業を営む経営者にとっては、価格設定や仕入れ計画に直接影響します。また、インボイス制度との絡みもあり、事務負担がさらに増える可能性もあります。
私は、制度が複雑になればなるほど、経営者が本業に集中できなくなると危惧しています。だからこそ、税理士として、制度の本質を分かりやすく伝え、経営者が迷わず判断できるようサポートすることが、私たちの使命だと思っています。
税理士としての役割:「起点」であり続けること
今回の骨太の方針を読んで、改めて感じたことがあります。
それは、税理士は、経営者が最初に相談できる存在であり続けなければならないということです。
税制が変わるとき、経営者が最初に疑問を持つのは「うちの会社はどうなるのか?」という点です。そのとき、すぐに信頼できる相手として名前が挙がるのが、私たち税理士であるべきです。
給付付き税額控除のような新しい制度が導入されたとき、それを「ただの制度変更」として処理するのか、それとも「経営にどう影響するか」という視点で一緒に考えるのか。その違いが、税理士の価値を大きく分けると、私は信じています。
デジタル化と税制──執行体制の強化にも注目
もうひとつ、見逃せないのが「デジタル社会にふさわしい税制の構築」という一文です。
これは、電子帳簿保存法やインボイス制度の延長線上にある話ですが、今後さらに税務の電子化・デジタル化が進むことを意味しています。
同時に、「適正・公平な課税を実現する観点から、制度及び執行体制の両面からの取組を強化する」とも書かれています。つまり、税務調査や課税の厳格化も並行して進むということです。
私は、これを「監視強化」とネガティブに捉えるのではなく、正しく申告している企業が正当に評価される時代になると前向きに捉えています。
だからこそ、日々の記帳や申告を適切に行うことが、ますます重要になります。そして、その基盤を支えるのが、税理士の役割です。
全世代型社会保障と経営者の視点
最後に、骨太の方針で強調されている「全世代型社会保障の構築」について触れます。
この方針では、「年齢に関わらず能力に応じて公平に負担し合い、必要な方に必要なサービスが適切に提供される」という理念が掲げられています。
私は、この理念そのものには賛成です。ただし、その実現のために「どこまでの負担を誰が担うのか」という点については、慎重に議論されるべきだと考えています。
経営者の立場からすれば、社会保障の充実は従業員の安心につながり、結果として企業の安定にも寄与します。しかし、その負担が過度に企業に集中すれば、経営を圧迫し、かえって雇用を不安定にしてしまいます。
私たち税理士は、こうした「制度の理念」と「現場の現実」の両方を理解し、経営者に対してバランスの取れた視点を提供することが求められていると感じています。
おわりに:変化を恐れず、備えよう
「給付付き税額控除」という言葉を初めて聞いた方も多いかもしれません。ですが、この制度は、今後の日本の税制と社会保障のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
経営者の皆さんには、こうした変化を恐れるのではなく、正しく理解し、備えることをお勧めします。
そして、そのために頼れる存在として、私たち税理士がいます。
制度が複雑になればなるほど、専門家の存在価値は高まります。ですが、それは「知識を持っているから」ではなく、「経営者に寄り添い、一緒に考えてくれるから」選ばれるのだと、私は信じています。
これからも、私は「最初に相談される存在」であり続けるために、情報を追い続け、経営者の皆さんの背中を押し続けたいと思っています。
変化の時代だからこそ、一緒に乗り越えていきましょう。
参考HP→https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html
(内閣府HP)

