最近、Forbes JAPANで興味深い記事を読みました。「お金で幸せは買える」という研究結果についての記事です。ペンシルベニア大学の心理学者マシュー・キリングスワース教授の研究によれば、年収の増加とともに幸福度も上がり続けるという結論が出ているそうです。
税理士という職業柄、私は日々、経営者の方々のお金にまつわる相談を受けています。決算書を前に一喜一憂する経営者の姿を見てきましたし、資金繰りに悩む方、逆に利益が出すぎて税金に頭を抱える方、さまざまな「お金と向き合う人間の姿」を目の当たりにしてきました。
だからこそ、この研究結果を読んで思うことがあります。「お金で幸せは買えるのか」という問いに対して、税理士としての私なりの答えを、今日はお話ししたいと思います。
お金は「幸福の道具」であって「目的」ではない
キリングスワース教授の研究では、年収50万ドルを超えても幸福度は上昇し続けるという結果が示されています。一方で、教授自身も「幸福はお金以外の多くの要因によって決まる」と述べています。
私はこの意見に完全に同意します。というより、税理士としてお金の現場を見続けてきた立場から言えば、これは当たり前のことなのです。
経営者の方々と話していていつも感じるのは、「お金があれば幸せ」なのではなく、「お金があることで選択肢が増え、人生をコントロールできる感覚が生まれる」ということです。記事の中でも「圧倒的な人生のコントロール感」というキーワードが出てきますが、まさにこれが本質だと私は思います。
例えば、キャッシュに余裕がある会社は、不況が来ても慌てません。新しい挑戦をするときも、失敗を恐れすぎずに一歩を踏み出せます。逆に、キャッシュがギリギリの会社は、毎月の支払いに追われ、経営者は常に不安を抱えています。
この違いは何かといえば、「コントロール感」の有無です。お金があるから幸せなのではなく、お金があることで「自分の人生や事業を自分でコントロールできている」という感覚が得られるから、幸福度が上がるのです。
決算書の数字より「キャッシュ」が経営者を安心させる
私は常々、経営者の方に「利益よりもキャッシュが大事です」と伝えています。これは単なる会計理論の話ではなく、経営者の精神的な安定、ひいては幸福度に直結する話だからです。
決算書で黒字でも、手元にキャッシュがなければ経営者は不安です。逆に、利益がそれほど大きくなくても、現金が潤沢にあれば、経営者は安心して前を向けます。
これもまた「コントロール感」の問題です。キャッシュがあれば、急なトラブルにも対応できますし、チャンスが来たときに素早く動けます。つまり、不確実な未来に対して「自分でなんとかできる」という感覚を持てるのです。
幸福の研究でも、「人生を自分でコントロールできている」と感じる人ほど幸福度が高いという結果が出ています。経営においても全く同じです。キャッシュは、その「コントロール感」を支える最も重要な土台なのです。
「儲ける」より「残す」経営が幸福をつくる
私がお客様に節税の相談を受けたとき、必ずお伝えするのは「怪しいテクニックに頼らず、王道の方法で着実に残しましょう」ということです。
一時的に税金を減らせても、キャッシュが減ってしまったり、後々トラブルになったりする方法では意味がありません。それどころか、経営者の精神的な負担になり、結果的に幸福度を下げてしまいます。
大事なのは、「儲ける」ことよりも「残す」ことです。どれだけ売上が大きくても、手元に現金が残らなければ、経営者は不安から解放されません。逆に、売上がそこそこでも、しっかりキャッシュが残る経営ができていれば、経営者は安心して次の一手を考えられます。
これは「小さく強く」という私の経営哲学にも通じます。派手に拡大するよりも、堅実にキャッシュを残し、強い財務基盤をつくる。そうすることで、経営者は自分の人生を自分でコントロールできるようになり、結果として幸福度も上がるのです。
お金は「安心」を買うもの、でもそれだけではない
キリングスワース教授の研究では、「非常に裕福でも惨めな人もいる」と述べられています。これも、私が現場で実感していることです。
税理士として多くの経営者を見てきましたが、お金があっても幸せそうでない方もいます。その多くは、お金を「目的」にしてしまっている方です。
お金は手段です。道具です。それ自体が目的になってしまうと、いくら稼いでも満足感は得られません。「もっと、もっと」と追い求めるだけで、結局いつまでも幸せを感じられないのです。
逆に、お金を「自分や家族の安心のため」「やりたいことを実現するため」「誰かの役に立つため」といった明確な目的のための道具として使っている方は、幸福度が高いように感じます。
税理士という立場は、単に数字を処理する人ではなく、経営者が「お金とどう向き合うか」を一緒に考える伴走者だと私は思っています。だからこそ、お客様には「お金で何を実現したいのか」「どんな経営をしたいのか」という本質的な部分を大切にしてほしいと願っています。
「人生をコントロールする感覚」を支えるのが税理士の役目
記事の中で最も印象的だったのが、「圧倒的な人生のコントロール感」というフレーズです。
これこそが、お金と幸福を結びつける本質だと私は確信しています。そして、税理士の仕事もまた、経営者がこの「コントロール感」を持てるように支えることだと思うのです。
経営者が決算書の数字を理解し、キャッシュの流れを把握し、未来の計画を立てられるようにサポートする。リスクがあればきちんと伝え、でも最終的な意思決定は経営者に委ねる。
そうすることで、経営者は「自分の会社を自分でコントロールできている」という感覚を持てます。これが、経営における幸福の土台になるのです。
私が目指しているのは、「最初に相談される存在」です。お金のことだけでなく、経営の悩み、将来の不安、何でも話してもらえる関係。そういう信頼関係の中で、経営者が安心して前に進めるように背中を押す。それが税理士の本当の価値だと思っています。
まとめ:お金で幸せは買えるけれど、それは「道具」として使ったときだけ
結論として、私はこう思います。
お金で幸せは買えます。でもそれは、お金を「人生をコントロールするための道具」として正しく使ったときだけです。
お金があれば選択肢が増えます。不安が減ります。やりたいことが実現できます。でも、お金そのものが目的になってしまったら、いくら稼いでも幸福は得られません。
税理士として私が大切にしているのは、経営者がお金に振り回されるのではなく、お金を上手に使いこなして、自分らしい経営をしていけるように支えることです。
キャッシュを残す。堅実に強い会社をつくる。そして何より、経営者が「自分の人生を自分でコントロールできている」という感覚を持てるようにする。
それが、お金と幸福を結びつける唯一の道だと、私は信じています。
参考記事「お金で幸せは買える」という最新研究の結論。カギは圧倒的な人生のコントロール感 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

