世界遺産・高野山の宿坊を営む宗教法人が、大阪国税局の税務調査で集団申告漏れを指摘され、総額1億円超の申告漏れと約6000万円の追徴税額が課されたというニュースが報じられました。
1200年の歴史を持つ高野山という聖地で、なぜこのような事態が起きたのでしょうか。
私は税理士として多くの税務調査に立ち会ってきましたが、このニュースを見て改めて感じたのは「宗教法人であっても、収益事業を営む以上、一般の事業者と同じルールが適用される」という当たり前の事実です。
今回は、高野山の事例を題材に、宗教法人の税務調査の実態と、どんな業種でも共通する「売上もれ」のリスクについてお話しします。
目次
高野山で何が起きていたのか
報道によれば、高野山で宿坊を営む約50の宗教法人のうち、十数法人が税務調査を受け、その半数以上で申告漏れが確認されたとのことです。
調査の結果、総額1億円超の申告漏れと、約6000万円の追徴税額が課されました。中には熊本藩細川家ゆかりの総持院のように、約9000万円の申告漏れで約4000万円の追徴税額(重加算税含む)を課されたケースもあったようです。
何が問題だったのか。大きく分けて2つのポイントがあります。
1. 宿坊の収入を適切に申告していなかった
宗教法人であっても、宿坊のような「宿泊業」は収益事業に該当し、法人税の課税対象となります。
高野山の宿坊は、インバウンド需要の高まりで近年大きく収益を伸ばしていました。2025年には外国人宿泊客が過去最多の11万7000人に達し、高級旅館並みの宿坊も現れているとのことです。
しかし、宗教法人の中には「非課税部門(お布施など)」と「課税部門(宿坊収入)」の収支を混在させて報告していたケースがあり、これが申告漏れとして指摘されたのです。
2. 私的支出を法人経費に計上していた
さらに深刻なのは、住職側の私的な支出を宗教法人の経費に計上していたケースです。
総持院では、住職の家族が3年間にわたって宿坊の収入や檀家からの布施を私的に支出していたことが発覚しました。国税局はこれらを住職家族の「隠し給与」とみなし、所得税の源泉徴収漏れを指摘しました。
つまり、法人のお金と個人のお金を区別せず、私的な支出を法人の経費として処理していたということです。これは宗教法人に限らず、どんな法人でも絶対にやってはいけないことです。
宗教法人は「収益事業のみ」課税される
改めて整理しておきましょう。
宗教法人は、その宗教活動自体には課税されません。お布施、お賽銭、戒名料といった宗教活動に伴う収入は非課税です。
しかし、宗教法人であっても「収益事業」を営んでいる場合には、その部分については法人税が課税されます。収益事業とは、法人税法で定められた34種類の事業のことで、宿泊業、物品販売業、飲食業などが該当します。
今回の高野山のケースは、まさにこの「宿坊=宿泊業」という収益事業の売上が適切に申告されていなかった、という問題です。
そして、非課税の公益事業と課税の収益事業を混同し、収支を一緒くたに報告していたことが、申告漏れとして指摘されたのです。
私的支出を法人経費にするのは「論外」
報道では、住職側の私的な支出を法人の経費に計上していたケースが複数あったとされています。
これは宗教法人だから、というレベルの問題ではなく、法人経営の基本中の基本ができていなかったということです。
法人のお金と個人のお金を明確に区別することは、どんな業種、どんな組織形態であっても絶対に守らなければならないルールです。
税務調査では、経費の内容が詳しくチェックされます。特に現金で処理されているもの、領収書がないもの、使途が不明確なものについては、調査官から厳しく質問されます。
もし私的な支出が法人の経費として計上されていた場合、それは経費として認められないばかりか、役員への給与として認定される可能性があります。そうなると、本来納めるべきだった法人税に加えて、源泉所得税や加算税、延滞税といったペナルティが課されることになります。
今回の総持院のケースでは、「隠し給与」とみなされ、重加算税を含めて約4000万円もの追徴税額が課されました。これは非常に重いペナルティです。
公益事業でも「売上もれ」は厳しくチェックされる
私が税理士として税務調査に立ち会ってきた経験から言うと、宗教法人の調査では「売上もれ」が非常に重点的にチェックされます。
宗教法人の公益事業──たとえばお葬式のお布施や法事のお経料など──は、現金でやり取りされることがほとんどです。振込や請求書を発行するわけではないため、記録が残りにくいという特性があります。
税務調査では、こうした現金収入がきちんと帳簿に記録されているかどうかが厳しく見られます。調査官は、過去の収入記録、銀行口座の入出金履歴、檀家や信徒の数から推定される収入額などを総合的に照らし合わせて、売上もれがないかを確認します。
私が立ち会ったケースでは、公益事業の売上が一部計上されていなかったことを指摘され、そのもれた収入が「住職への給与」としてこじつけられそうになったこともあります。
つまり、「計上していなかった収入は、住職が個人的に受け取ったものだ」という理屈です。こうなると、住職個人に対する所得税の課税まで発生してしまいます。
今回の高野山の事例でも、檀家から受け取った布施を私的に支出していたことが「隠し給与」とみなされており、まさに同じ構図です。
どんな業種でも「売上もれ」は最も危険
税務調査において、最も厳しく追及されるのが「売上もれ」です。
売上をきちんと計上しないということは、意図的に税金を少なく申告していると見なされる可能性が高いからです。経費の過大計上や計上時期のミスなどとは、重みが全く違います。
税務署としては、「売上がもれている」ということは「隠している」と判断しやすく、それが重加算税という重いペナルティの対象になることもあります。
重加算税は、通常の過少申告加算税(10%)よりもはるかに高い税率(35%)が適用され、かつ将来の税務調査においても「過去に重加算税を受けた法人」としてマークされることになります。
今回の総持院のケースでは、実際に重加算税が課されています。これは国税当局が「意図的な隠蔽」と判断したことを意味します。
だからこそ、売上の計上については徹底的に正確であるべきなのです。
私は税理士として、どんな業種のクライアントに対しても「売上だけは絶対にもらさないでください」と繰り返しお伝えしています。売上さえきちんと計上していれば、他の多少のミスは説明できることが多いのですが、売上をもらしてしまうと信頼が一気に崩れてしまいます。
インバウンド好調だからこそ、税務管理の基本を
高野山の宿坊がここまで調査されるに至った背景には、インバウンド需要の急増があると考えられます。
外国人宿泊客が過去最多の11万7000人に達し、高級旅館並みの宿坊も現れている。つまり、宿坊事業が大きく収益を伸ばしているという実態があります。
国税当局としては、これだけ収益が伸びているのであれば、きちんと申告されているかを確認するのは当然の職務です。
そして、調査の結果、十数法人のうち半数以上で申告漏れが見つかったということは、宗教法人側に会計処理の甘さがあったことを示しています。
事業が好調な時こそ、税務管理の基本を徹底する必要があります。売上が増えれば、当然納税額も増えます。それを適切に申告し、納税することは、事業を営む者の基本的な責任です。
宗教法人にも「経営感覚」が求められる時代
今回のニュースを見て、私が改めて感じたのは「宗教法人であっても、経営としての基本をきちんと守らなければならない」という当たり前の事実です。
宗教法人は、公益的な活動を担う存在として税制上の優遇を受けています。しかしそれは、「何をやっても許される」という意味ではありません。収益事業を営むなら、その部分については一般の法人と同じように税務上のルールを守る必要があります。
特に、現金収入が多い業種であるがゆえに、売上の管理や記録の正確性が求められます。領収書の発行、入金記録の整備、帳簿の作成といった基本的な経理処理を怠らないことが、税務調査におけるトラブルを避ける最善の方法です。
また、私的な支出と法人の支出を明確に区別することも、経営者としての基本です。「これくらいなら」という甘えが、後々大きなリスクとなって返ってきます。
税務調査は「信頼」を試される場
私は税務調査の立会をするたびに思うのですが、税務調査とは単に数字の正確性を確認する場というだけではなく、「その法人がきちんと誠実に事業を営んでいるか」を試される場でもあります。
売上をごまかしている、経費を水増ししている、記録がずさん──こうした姿勢は、数字以前に「信頼できない経営者」という印象を与えてしまいます。
逆に、きちんと記録を残し、説明できる状態を保っていれば、多少のミスがあったとしても調査官との関係は良好に進むことが多いのです。
税務調査に対して過度に恐れる必要はありませんが、軽視してもいけません。日々の経理をきちんと行い、疑問があればすぐに税理士に相談する──そうした積み重ねが、いざというときに自分を守ってくれます。
最後に──「信頼される経営」のために
宗教法人であっても、一般企業であっても、個人事業であっても、税務の基本は同じです。
売上をきちんと計上する。経費と私費を混同しない。記録を正確に残す。
これらは決して難しいことではありませんが、日々の意識がなければ簡単に崩れてしまうものでもあります。
高野山の事例は、「宗教法人だから大丈夫」という甘い認識が、どれほど大きなリスクを生むかを示しています。総額1億円超の申告漏れ、約6000万円の追徴税額、そして何より、1200年の歴史を持つ聖地の信頼が傷つくという結果を招いてしまいました。
税務調査は突然やってきます。その時に慌てないためには、日常の経理処理をきちんと行い、疑問があればすぐに専門家に相談する姿勢が大切です。
私たち税理士は、単に申告書を作る存在ではなく、経営者の皆さんが安心して事業を続けられるように、リスクを事前に察知し、正しい道筋を示す役割を担っています。
もし、「これは大丈夫かな?」と少しでも不安に思うことがあれば、遠慮なく相談してください。それが、信頼される経営を続けるための第一歩です。

