なぜ試算表を定期的に作成しないのか?

なぜ試算表を定期的に作成しないのか?

はじめに

多くの経営者の方とお話をしていると、「試算表は年に一度、決算のときに見る程度」という声を耳にすることがあります。また、「税理士から送られてくるけれど、正直あまり見ていない」という方もいらっしゃいます。

しかし私は、税理士として断言します。試算表を毎月、あるいは最低でも2か月に1回作成することは、経営において「当たり前」のことです。

これは単なる理想論ではありません。経営を安定させ、強い会社を作るために絶対に必要な習慣なのです。

試算表とは何か、なぜ定期的に必要なのか

試算表とは、簡単に言えば「今、会社の状態がどうなっているか」を数字で映し出したものです。売上がどれだけあって、経費がどれだけかかって、利益がどれだけ出ているか。そして現金がどれだけ残っているか。これらを一覧できるのが試算表です。

経営者にとって試算表は、車で言えば「メーター」のようなものです。スピードメーターを見ずに運転する人はいないはずです。ガソリンの残量を確認せずに遠出する人もいないでしょう。それと同じように、会社の状態を示す試算表を見ずに経営判断をすることは、非常に危険なことなのです。

にもかかわらず、試算表を見る習慣がない経営者が意外と多いのが現実です。その理由はいくつかあります。「税理士が作成してくれない」「数字が苦手」「見方がわからない」「忙しくて時間がない」などです。

しかし、これらは本質的な理由ではありません。一番の問題は、試算表を「見なければならないもの」として位置づけていないこと、そして試算表が経営判断に直結するものだという認識が薄いことです。

試算表を見ないことのリスク

試算表を見ない経営は、霧の中を手探りで進むようなものです。何が起きているのかわからないまま、気づいたときには資金繰りが厳しくなっている、利益が出ていると思っていたのに実は赤字だった、ということが起こります。

たとえば、売上が順調に伸びているように感じていても、実際には経費が増えすぎていて利益が減っていることがあります。また、利益が出ていても、売掛金の回収が遅れていて現金が手元にない、ということも珍しくありません。

私がよくお伝えするのは、「利益よりもキャッシュが大事」ということです。会社は赤字でもすぐには潰れませんが、現金がなくなったら一瞬で終わります。そのキャッシュの動きを把握するためにも、試算表は欠かせないのです。

試算表を見ていれば、異変に早く気づけます。「先月より経費が増えているな」「この科目だけ急に膨らんでいるぞ」といった小さな変化を捉えることができます。そして、その変化に対して早めに手を打つことができるのです。

逆に、試算表を見ていないと、問題が深刻化してから気づくことになります。そうなると、打てる手も限られてしまいます。

定期的に作ることの意味

「試算表は決算のときに見ればいいのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、それでは遅すぎるのです。

決算は1年に1回です。1年前のことを振り返っても、もう手遅れです。経営は生き物です。毎月状況は変わります。だからこそ、定期的に試算表を作り、現状を把握する必要があるのです。

私は「毎月、もしくは2か月に1回」とお伝えしていますが、理想は毎月です。2か月に1回でも最低限の確認はできますが、できれば毎月見る習慣をつけていただきたいと思っています。

定期的に試算表を作ることで、以下のようなメリットがあります。

経営の現状を正確に把握できる

今月どれだけ売上があったのか、どれだけ経費を使ったのか、現金はどれだけ残っているのか。これを毎月確認することで、常に会社の状態を把握できます。

早期に問題を発見できる

売上の減少、経費の増加、資金繰りの悪化など、問題の兆候を早期に発見できます。早く気づけば、対策も早く打てます。

経営判断の精度が上がる

「新しい設備を導入すべきか」「人を雇うべきか」「広告費をどれだけかけるか」といった判断を、数字に基づいて行うことができます。感覚ではなく、データで判断できるのです。

税理士との対話が深まる

試算表を定期的に見ることで、税理士と具体的な数字をもとに対話ができます。「この経費、もう少し抑えられませんか?」「このままいくと利益はどうなりますか?」といった相談が可能になります。

税理士は数字を処理する人ではなく、経営者が最初に相談できる存在であるべきです。そのためには、試算表という共通言語が必要なのです。

試算表を見る習慣をどうつくるか

「試算表が大事なのはわかったけれど、どうやって習慣にすればいいの?」という疑問もあるかと思います。

まず、試算表を「見なければならない義務」と捉えるのではなく、「経営を守るための武器」と考えてください。試算表は、あなたの会社を守り、成長させるための道具なのです。

そして、税理士に依頼して、必ず定期的に試算表を作ってもらうようにしてください。もし今の税理士が年に一度しか試算表を出してくれないのであれば、それは正直に言って、良い税理士とは言えません。

良い税理士とは、経営者に近い立場で数字を見ながら、本人ともきちんと対話する人です。試算表を毎月作り、それをもとに経営者と対話し、必要なアドバイスをする。それが税理士の本来の姿です。

また、試算表を見るときは、細かい数字にこだわりすぎる必要はありません。まずは全体の流れを掴むことが大切です。売上は増えているか、経費は適正か、現金は残っているか。この3点を確認するだけでも、経営の方向性は見えてきます。

試算表は「経営の積み重ね」を映すもの

試算表は、過去の経営判断の積み重ねを映し出すものです。今月の試算表は、先月までの行動の結果です。そして今月の行動が、来月の試算表に反映されます。

だからこそ、試算表を見ることは、自分の経営を振り返ることでもあります。「この経費は本当に必要だったか」「この売上はどうやって生まれたのか」と考えることで、次の行動が変わります。

決算書を絶対視する必要はありませんが、冷静に受け止めることは大切です。数字は嘘をつきません。試算表に映し出された現実を受け入れ、そこから次の一手を考える。それが経営です。

AI時代でも変わらない、試算表の価値

これからの時代、AIや自動化が進んでいくことは間違いありません。会計ソフトも進化し、試算表の作成もどんどん効率化されるでしょう。

しかし、どれだけ技術が進んでも、試算表を見て、判断を下すのは経営者自身です。 AIが経営判断をしてくれるわけではありません。

そして、税理士の役割も変わりません。数字を処理するだけならAIでもできますが、経営者の背中を押すこと、寄り添って一緒に考えること、リスクを正しく伝えることは、人にしかできません。

試算表を毎月作り、それをもとに税理士と対話し、経営を前に進めていく。このサイクルは、これからも変わらず大切なものであり続けます。

まとめ

試算表を毎月、あるいは2か月に1回作ることは、経営において「当たり前」のことです。

それは義務ではなく、会社を守り、強くするための習慣です。試算表を見ることで、現状を把握し、問題に早く気づき、正しい判断ができるようになります。

もしまだ試算表を定期的に見る習慣がないのであれば、今日から始めてください。税理士に相談し、定期的に試算表を作ってもらうようにしてください。そして、その試算表をもとに、経営について対話をしてください。

数字は難しいものではありません。経営の現実を映し出してくれる、頼れる味方です。

試算表を見る習慣が、あなたの会社をもっと強くします。