2025年分の確定申告で、税務署などの会場を訪れて申告した人の割合がわずか9.3%にまで減少したというニュースが国税庁から発表されました。一方で、自宅からスマートフォンやパソコンを使ってe-Taxで申告した人は全体の4割を超えたとのことです。
税理士という仕事をしている私からすると、この流れは「時代の必然」だと感じています。ただ同時に、だからこそ経営者や個人事業主の皆さんには、ぜひ税理士という存在をうまく使ってほしいとも思っているんです。
今回は、この「確定申告のデジタル化」という大きな変化の中で、税理士という仕事がどう変わっていくべきか、そしてどう変わらないでいるべきかについて、私の考えをお伝えしたいと思います。
税務署に行かなくても申告できる──これは良いことです
まず前提として、私は「税務署に行かなくても申告できる」という環境が整ってきたこと自体は、すごく良いことだと思っています。
税務署の窓口って、正直言って混んでますよね。今はLINE予約になっていますが、予約しても待ち時間が長いし、平日の日中にしか開いていないことが多い。忙しい経営者や会社員の方にとっては、そこに行くこと自体が大きな負担でした。それが自宅で、しかもスマホでできるようになったというのは、間違いなく進歩です。
国税庁も「会場の混雑を避けて、自宅から簡単に申告してください」という方針を明確にしています。実際、税務署での申告者数は2021年から3割も減っていてこれはもう、完全に「来なくていいですよ」というメッセージですよね。
マイナンバーカードを使えば、給与や医療費の情報が自動入力される「マイナポータル連携」も利用できて、確定申告がどんどん楽になっている。これは技術の恩恵であり、納税者にとってありがたい変化です。
でも、「自分でできる」と「自分だけでやるべき」は違います
ここからが本題なんですが、私が伝えたいのは「自分でできるようになったからといって、全部自分でやらなくてもいい」ということです。
確定申告がデジタル化されて、確かに「手続き」は簡単になりました。でも、それは「正確に申告できる」こととイコールではありません。むしろ、簡単にできるようになったからこそ、間違いや見落としが増えるリスクもあるんです。
たとえば、経費の計上漏れ。本来なら計上できるはずの経費を知らずにスルーしてしまっていたり、逆に、経費として認められないものを入れてしまっていたり。これ、実は結構多いんですよ。
あと、節税対策。世の中には「これをやれば節税できる!」みたいな情報が溢れていますが、中には怪しいものもあるし、自分の状況に合っていないケースもあります。私は節税については「効果のある王道の方法を基本とし、怪しさや過度なテクニックには寄らない」という考え方を大事にしているんですが、自分一人で判断するのは難しいこともあります。
それから、もっと根本的な話として、「数字をどう読むか」という視点。確定申告書を作ることはできても、その数字が何を意味しているのか、今後の経営にどう活かすのかまで考えられている人は、実はそんなに多くありません。
税理士の価値は「申告書を作ること」だけじゃない
私は税理士という仕事について、こう思っています。
税理士とは、数字を処理する人ではなく「最初に相談される存在」である。
確定申告書を作るのは、税理士の仕事の一部です。もちろん大事な仕事ですが、それだけが税理士の価値ではありません。
税理士の本質は、経営者が抱える課題に対して、数字を見ながら一緒に解決策を考えることです。必要なら自分以外の専門家──たとえば弁護士や社労士、金融機関など──もつないで、総合的に解決に導く。そういう「相談の起点」になることが、税理士の本当の役割だと私は思っています。
確定申告の数字を見て「今年は利益が出たけど、キャッシュが残ってないですね」と気づいたとします。これ、経営者にとってはすごく重要な情報なんです。なぜなら、会社経営で最も重要なのは利益よりキャッシュだからです。
利益が出ていても、現金がなければ資金繰りに困ります。逆に、決算書の数字が悪くても、キャッシュがしっかり残っていれば会社は強い。こういう視点で数字を見て、「じゃあどうすればいいか」を一緒に考えるのが、税理士の仕事です。
AI時代でも、人と人が会って話すことに価値がある
「これからAIが発達したら、税理士なんて要らなくなるんじゃないか?」
そんな声を聞くこともあります。確かに、定型的な作業はAIやシステムに置き換わっていくでしょう。確定申告書の作成だって、もっと自動化されるかもしれません。
でも、私はこう思っています。
AI時代でも人が会って話し、経営者の背中を押すことに税理士の価値が残り続ける。
数字を入力すれば答えが出るような問題なら、AIで十分です。でも、経営の悩みって、そんなに単純じゃないですよね。
「今年は設備投資すべきか、それとも我慢すべきか」
「この取引先とどう付き合っていくべきか」
「そもそも、この事業を続けるべきなのか」
こういう問いには、正解がありません。経営者自身の価値観、状況、タイミング、リスクの許容度……そういったものを総合的に考えて、最終的には「自分で決める」しかない。
そのときに必要なのは、数字を出してくれる機械じゃなくて、一緒に考えてくれる人間です。経営者に近い立場で数字を見ながら、本人ともきちんと対話する。リスクは正しく提示しつつ、最終的には経営者の意思を尊重する。そういう存在が、税理士だと思うんです。
顧問契約は「信頼されていることの証明」です
私の顧問先の経営者の方々は、決して「確定申告書を作ってもらうため」だけに顧問契約をしてくださっているわけではないと思っています。
もちろん、申告業務はきちんとやります。でも、それ以上に「困ったときに相談できる相手がいる」という安心感を求めてくださっているんじゃないかなと。
顧問契約というのは、単なる業務契約ではなく、信頼されていることの証明だと私は考えています。
だからこそ、私は「話しやすさ」とか「近い存在であること」をすごく大事にしています。税理士って、どうしても堅いイメージがありますよね。でも、それだと経営者が気軽に相談できない。
そして、必ず私が経営者と直接連絡を取る。職員さんが何人もいる事務所だと、なかなか有資格者と連絡がつかない場合がある。それだと相談した際にすぐ答えがもらえない。そのようなことはしたくなかった。それが私の信念になっています。
私が目指しているのは、「友達っぽい関係」とまでは言わないけれど、少なくとも「この人には何でも聞ける」と思ってもらえる距離感です。フランクだけど誠実で、安心して任せられる。そんな存在でありたいと思っています。
専門性だけでは差別化できない時代だからこそ
正直に言うと、税理士の資格を持っているだけでは、もう差別化にならない時代です。税理士の数は増えていますし、AIもありますし、確定申告の手続き自体も簡単になっている。
じゃあ何で選ばれるかというと、「思想」「理念」「人としての信頼感」なんです。
この人は、どういう考えで仕事をしているのか。
この人に相談したら、どんな答えが返ってくるのか。
この人は、自分のことを本当に考えてくれるのか。
そういう「人間対人間」の部分が、選ばれる理由になる。専門性はあって当たり前で、その先に何があるかが問われているんだと思います。
だから私は、自分の価値観や考え方を発信することを大切にしています。「この人の考え方に共感できる」と思ってもらえたら、それが一番の差別化になる。そして、その信頼関係の上に成り立つのが、顧問契約だと思っています。
決算書は「経営の積み重ねを映す指標」にすぎません
最後にもう一つ、お伝えしたいことがあります。
確定申告や決算書というのは、もちろん大事です。でも、それを「絶対視」する必要はありません。
決算書は、あくまで「経営の積み重ねを映す指標」です。良い数字が出たからといって安心しすぎてもいけないし、悪い数字が出たからといって絶望する必要もない。大切なのは、その数字をどう受け止めて、次にどう動くかです。
私は経営者に対して、「数字はツールであって、目的じゃない」とよく言います。数字を良くすることが目的なんじゃなくて、事業を続けること、お客様に価値を届けること、従業員を守ること。そういう本質的な目的のために、数字をどう使うかが大事なんです。
だからこそ、気軽に相談してほしい
確定申告がどんどん簡単になっていく時代だからこそ、私は思います。
税理士は、もっと「相談しやすい存在」にならなきゃいけない。
申告書を作るだけの存在じゃなくて、経営の伴走者として、経営者の近くにいる。困ったときに「ちょっと聞いていいですか?」と言ってもらえる関係を作る。
それが、これからの税理士に求められることだと思います。
もしあなたが今、確定申告を自分でやっていて、「これで合ってるのかな?」「もっといい方法があるんじゃないかな?」と感じているなら、ぜひ一度、税理士に相談してみてください。
税理士はサービス業です。あなたの話を聞いて、一緒に考えて、経営者の背中を押すのが仕事です。遠慮する必要はありません。
デジタル化が進む時代だからこそ、人と人がつながることの価値は、むしろ高まっていくと私は信じています。

