「日経平均が7万円に迫っているのに、生活が豊かになった実感がない」という声が、あちこちから聞こえてきます。テレビもネットも「実感なき好景気」という言葉を連呼して、政治批判に繋げるような論調も目立ちます。でも私は、税理士として多くの経営者の財務と向き合ってきた立場から言わせてもらうと、これは何も矛盾した話ではないと思っています。
むしろ、至極当然のことが起きているだけです。
株高の恩恵を受けたのは「株主だけ」
元記事にもありましたが、2025年に日本で新たに誕生した富裕層(投資可能資産100万ドル以上)は、なんと43.6万人にのぼったそうです。これはアメリカに次ぐ世界第2位の増加数で、中国の15.4万人を大きく上回っています。つまり、株高で豊かになった日本人は確実に存在するわけです。
それは誰かというと、株を持っていた人です。
日経平均が4万円から5万円に上がる過程で、株式や投資信託を保有していた層は、その上昇をそのまま資産増加として享受しました。ごく単純に言えば、「株を持っていた人は豊かになり、持っていなかった人はそのまま」という現実があるだけなんです。
だとすれば、「実感なき好景気」という言葉は、正しくは「株を持たない人にとっての実感なき好景気」と言うべきです。主語を「日本人全体」にすり替えているから、おかしな話に見えるだけだと思います。
メディアは「怒り」を商品にしている
私は経営者の方々と日々お話しする中で、この「主語のすり替え」がいかに危険かを感じています。
メディアの視聴者や読者の多くは、株を持っていない層です。そこに向けて「あなたが豊かになっていないのは、企業が利益を還元しないからだ」「政府が悪いからだ」といった分かりやすいメッセージを届けることで、共感とアクセス数を稼ぐ構造があります。
怒りという感情は、強力なコンテンツになります。でも、怒っている間も市場は動き続けているし、自分の資産が1円でも増えるわけではありません。メディアが怒りを売っている間に、投資をしている人たちは静かに資産を積み上げているんです。
私は税理士として、数字を見ながら経営者と対話する立場です。そこで強く感じるのは、「感情で動くのではなく、現実を冷静に見て、自分にできることをやる人が結果を出している」ということです。
デフレ時代は「貯金が正解」だった
「株を持たない人が悪い」という意見もあります。確かに、自己責任論としては正論です。
でも、私は少し違った見方をしています。日本人が投資をしてこなかった理由は、「勉強不足」というより、「勉強する動機がなかった」ことのほうが大きいと思っています。
過去30年、日本はデフレでした。株価も横ばいか下落を続け、投資をしても報われない時代が長く続きました。そんな環境で金融リテラシーを高めても、得られる果実はほとんどなかったわけです。だから、当時は貯金を選ぶことのほうが合理的だったんです。
問題は、環境が変わったのに行動が変わらないことです。
2020年以降、日本は明確にインフレ経済へと移行しました。株式市場も長期的な上昇トレンドに入り、貯金の実質価値が毎年目減りする時代になっています。この環境変化に対応できた人と、できなかった人の間で、資産格差が急速に広がっているのが現実です。
つまり、格差は「持つ者が搾取した」結果ではなく、「環境変化への対応速度の差」が生んだものだと、私は考えています。
投資の本質は「稼ぐ力」にある
では、今から投資を始めればいいのか。もちろん、それも一つの答えです。
ただ、私が経営者や若い世代の方によくお伝えするのは、「投資で一番大事なのは元本であり、元本を増やすには稼ぐ力が必要だ」ということです。
100万円を年利5%で運用しても、年間5万円にしかなりません。でも1億円なら500万円です。つまり、資産運用で豊かになるための最大の変数は、「稼ぐ力」なんです。
スキルを磨いて転職する、副業で収入を増やす、事業を育てる。そうやって本業の収入を上げることが、最も効率的な資産形成の道だと、私は確信しています。
税理士としての仕事は、数字を処理することではなく、経営者の課題解決の起点になることだと思っています。だからこそ、資産形成の相談を受けたときも、「まずキャッシュを増やしましょう」と伝えています。投資の入金力を高めることが、遠回りに見えて一番の近道だからです。
未来も「実感なき好景気」は続く
元記事の筆者は、こう予言しています。
「日経が8万円になっても9万円になっても、メディアは次の『実感なき好景気』を報じ続け、株を持たない人間にとっては関係のない数字であり続ける」
私もその通りだと思います。
そして、株高を「自分とは関係のないニュース」として消費するのか、「自分の資産が増えているデータ」として受け取るのか。その違いを生むのは、怒りの感情でも政府の政策でもなく、今日の自分の選択だけです。
最後に:相談できる存在がいるかどうか
私は税理士として、経営者にとって「最初に相談される存在」でありたいと常に思っています。
お金の問題、資産の問題、将来への不安。それらは一人で抱え込むと、どうしても感情的になってしまいます。でも、信頼できる専門家に話すだけで、冷静に整理できることがたくさんあります。
「実感なき好景気」という言葉に振り回されず、自分の現実を冷静に見つめ、今できることを一つずつやっていく。そのために、私たち税理士がいます。
もし今、将来のお金に不安を感じているなら、まずは誰かに相談してみてください。それが、変化への第一歩になると思います。

