6300万円横領で弁護士が除名処分──高い職業倫理感が求められる専門家の責任とは

6300万円横領で弁護士が除名処分──高い職業倫理感が求められる専門家の責任とは

私は税理士として、日々、経営者や個人のお金に関する相談に乗っています。その中で常に意識しているのは、「専門家に求められる倫理とは何か」という問いです。今回、東京弁護士会が発表した弁護士の除名処分に関するニュースを目にして、改めてその重みを感じずにはいられませんでした。

依頼人が受け取るべき解決金約6300万円を横領したとして、東京弁護士会は所属する井原智生弁護士(62)を除名処分にしました。処分は2026年7月28日付で、これにより井原氏は弁護士資格を失いました。

このニュースを聞いたとき、私が最初に思ったのは「信頼を裏切る行為は絶対にいけない」という、シンプルですが絶対に譲れない原則でした。

専門家に求められる「高い職業倫理感」とは何か

弁護士や税理士といった士業は、いわゆる「先生業」と呼ばれることがあります。しかし私は、この呼び方に少し違和感を持っています。なぜなら、私たちは依頼者の上に立つ存在ではなく、あくまで「対等な人間として信頼される存在」であるべきだと考えているからです。

とはいえ、専門家である以上、一般の職業以上に高い職業倫理感が求められるのは事実です。それは、依頼者の人生やお金、家族、事業といった、人生で最も大切なものを預かる立場にいるからです。

税理士の仕事でいえば、経営者の会社の数字を扱い、キャッシュフローを見て、時には融資のタイミングや節税の提案、さらには事業承継や相続まで関わります。これらはすべて、依頼者にとって「命の次に大事なもの」と言っても過言ではありません。

弁護士も同様です。依頼者の権利を守り、紛争を解決し、場合によっては人生を左右する判断に関わります。そこには、絶対的な信頼関係が前提として存在しなければなりません。

信頼を裏切る行為は、なぜ絶対にいけないのか

今回の事件では、井原弁護士は依頼者のキャッシュカードから現金を無断で引き出したり、解決金計6390万円を横領したりしたとされています。しかも、過去にも業務停止処分を受けていたにもかかわらず、報告義務を怠り、さらに横領を重ねていたというのです。

これは単なる「ルール違反」ではありません。依頼者の人生そのものを踏みにじる行為です。

依頼者は、専門家に対して「この人なら任せられる」と思って依頼しています。法律や税務の知識がないからこそ、専門家に頼るのです。その前提には、「この人は誠実に対応してくれるだろう」という信頼があります。

その信頼を裏切る行為は、絶対にいけません。

なぜなら、それは「依頼者との契約違反」という以前に、「人として信じてくれた相手を裏切る行為」だからです。専門家としてのスキルや知識がどれだけ優れていても、この一線を越えた瞬間に、すべての信頼は失われます。

専門家として「当たり前」を積み重ねる大切さ

私は税理士として、派手な戦略やテクニックよりも、堅実で地道な仕事を大切にしています。それは、信頼というのは日々の積み重ねでしか築けないと思っているからです。

たとえば、節税提案をする際にも、私は王道の方法を基本としています。怪しげなスキームや、グレーゾーンを攻める方法には手を出しません。なぜなら、それが依頼者を守ることにつながると信じているからです。

また、顧問契約を結んでいただくことは、私にとって「信頼されていることの証明」です。毎月お金をいただくということは、それだけ期待されているということであり、その期待に応え続ける責任があります。

今回のような横領事件は、こうした「当たり前の積み重ね」をすべて否定する行為です。依頼者は、専門家に対して「普通にやってくれればいい」と思っているだけなのに、その普通すらも守られなかったのです。

専門家が果たすべき本当の役割

私は、専門家の本質は「最初に相談される存在」であることだと思っています。税理士であれば、数字の処理だけでなく、経営の悩みや資金繰り、時には家族のことまで相談を受けることがあります。

そのとき大切なのは、「自分だけで解決しようとしない」ことです。自分の専門外であれば、信頼できる他の専門家につなぐ。それもまた、専門家としての責任だと考えています。

今回の事件では、井原弁護士が過去に業務停止処分を受けていたにもかかわらず、報告を怠っていたことも明らかになっています。これは、自分の問題に向き合わず、逃げ続けた結果とも言えるでしょう。

もし彼が、自分の状況を正直に報告し、適切なサポートを受けていたら、こんな結末にはならなかったかもしれません。

依頼者を守るために、自分を律する

専門家である以上、私たちは常に自分を律する必要があります。それは、依頼者を守るためでもあり、自分自身を守るためでもあります。

私自身、日々の業務の中で「これは本当に依頼者のためになるのか」と自問することがあります。たとえば、節税提案一つとっても、短期的には税金が減るけれど、長期的にはキャッシュを減らすリスクがあるような提案は避けます。

なぜなら、会社経営で最も重要なのは利益よりもキャッシュだからです。税金を減らすことよりも、会社に現金を残すことの方がはるかに重要です。

そうした判断を積み重ねることで、依頼者との信頼関係が深まり、長期的な関係が築けると信じています。

おわりに

今回の事件は、専門家として絶対に越えてはいけない一線を越えた結果です。依頼者の信頼を裏切る行為は、どんな理由があっても許されるものではありません。

私たち専門家に求められるのは、高い職業倫理感を持ち続けることです。それは、依頼者を守り、自分自身を守り、そして専門家という職業全体の信頼を守ることにつながります。

信頼を裏切る行為は、絶対にいけない。この当たり前のことを、改めて心に刻む必要があると感じています。

そして、日々の仕事の中で「当たり前のことを当たり前にやる」ことの大切さを、これからも忘れずにいたいと思います。