税理士という仕事が”信頼される理由”を改めて考える──競艇脱税事件から学ぶこと

税理士という仕事が”信頼される理由”を改めて考える──競艇脱税事件から学ぶこと

2026年8月7日の報道は多くの人に衝撃を与えました。20代の税務署員が、競艇の払戻金で得た約3億3,400万円の所得を隠し、約1億5,000万円を脱税したとして告発されたというものです。しかもその資金源は、税務調査で知り合った高齢女性から受け取った現金、総額1億円超だったといいます。「納税が必要」という虚偽の説明で現金をだまし取ったとして、詐欺容疑でも書類送検・告発されたとのことです。

この事件を見たとき、私が最初に感じたのは「怒り」でした。同時に、「税理士という仕事の本質はどこにあるのか」ということを改めて深く考えさせられました。税理士、あるいは税務の世界に携わる者として、この事件から私たちが学ぶべきことは何か。そして、どんな姿勢で納税者と向き合うべきなのか。今日はそのことについて、私の思想をお伝えしたいと思います。


税理士は「最初に相談される存在」であるべきだ

私は常々、税理士という仕事の本質は「数字を処理する人」ではなく、「最初に相談される存在」だと考えています。経営者や個人事業主の方々が、何か困ったことがあったとき、真っ先に「あの人に聞いてみよう」と思ってくれる。それが税理士の理想の姿です。

税務調査も、本来そうあるべきです。調査官は確かに「調査」という立場で納税者と向き合いますが、その過程で信頼関係が生まれることもあります。むしろ、正しく納税をサポートし、理解を深めてもらうという意味では、調査は信頼構築の機会でもあるはずです。

しかし今回の事件では、その「信頼される立場」が悪用されました。高齢女性は、税務調査の専門家である彼を信じて、相談に乗ってもらっていたのでしょう。その信頼を裏切り、虚偽の説明で現金を受け取る。こんなことが許されるはずがありません。

税理士や税務署員という立場は、信頼されていることの証明です。顧問契約も同じです。それは単なる業務契約ではなく、「あなたに任せたい」という信頼の証です。その信頼を軽んじた瞬間、私たちはプロフェッショナルとしての価値を失います。


専門性だけでは選ばれない。人として信頼されるかどうかが全て

私はよく、「税理士は専門性だけでは差別化できない」と言っています。もちろん、税務や会計の知識は必須です。でも、それだけでは足りません。最終的に選ばれるのは、「この人なら安心して任せられる」と思ってもらえるかどうかです。つまり、思想や理念、人としての信頼感が選ばれる理由になるのです。

今回の事件の加害者は、おそらく税務の知識は持っていたでしょう。でも、人としての誠実さや倫理観が欠けていました。専門性があっても、信頼に値しない人間には、誰も大切なお金のことを任せたいとは思いません。

私が大切にしているのは、経営者に近い立場で数字を見ながら、きちんと対話することです。数字だけを見て「これが正しい」と押し付けるのではなく、相手の状況や想い、事業の背景をしっかり聞く。そのうえで、リスクは正しく提示し、意思決定を支える。それが税理士の役割だと思っています。

そして、税理士の本質は、課題解決の起点となることです。税務だけで解決できない問題があれば、他の専門家につなぐ。社労士、司法書士、弁護士、行政書士、ときには銀行や保険会社とも連携する。そうやって、経営者の課題を解決する「ハブ」になるのが、本来の税理士の姿です。


節税は王道で。怪しいテクニックには頼らない

今回の事件は「脱税」でしたが、世の中には「節税」と称して、限りなくグレーな手法を勧める人もいます。私は、そういうやり方には断固として反対です。

私が考える節税は、効果のある王道の方法です。怪しさや過度なテクニックには寄りません。たとえば、小規模企業共済、iDeCo、役員報酬の最適化、経費の適正計上など、法律に則った正攻法の節税です。これらは効果も安定していますし、税務調査で問題になることもありません。

一方、グレーな手法は短期的に税額を減らせても、長期的にはリスクが大きい。税務調査で否認されれば、延滞税や加算税がかかります。最悪の場合、今回のように刑事罰に問われることもあります。

そして何より、信頼を失うのです。顧問先から「あの税理士のせいで調査で大変なことになった」と思われたら、もうその関係は終わりです。信頼は築くのに時間がかかりますが、失うのは一瞬です。

だからこそ、私は堅実な節税を提案します。派手さはないかもしれませんが、経営者が安心して事業に集中できる環境をつくることが、税理士の仕事だと思っています。


会社経営で最も重要なのは「キャッシュ」である

今回の事件で、もうひとつ注目すべき点があります。それは、彼が競艇で約3億円超の所得を得ながら、そのほとんどを再び競艇に費やし、手元には何も残っていないという事実です。

舟券購入額は約8億6,000万円、回収率はわずか約39%。一般ファンの平均が67%前後とのことですから、これはかなり下手な部類です。つまり、彼は「稼いだ」のではなく、「たまたま大きく当てた」だけで、トータルでは大きく負けていたのです。

これは、ギャンブルの話だけではありません。会社経営にも通じる教訓があります。

私は常々、「会社経営で最も重要なのは、利益よりキャッシュだ」と言っています。どんなに帳簿上の利益が出ていても、現金が手元になければ、会社は回りません。逆に、利益が少なくても、キャッシュがしっかり残っていれば、会社は強くなります。

今回の事件の彼も、もし現金を手元に残し、きちんと納税していれば、所得税法違反の疑いで告発されることはなかったでしょう。でも、稼いだそばから使ってしまい、納税資金も残らなかった。これは、キャッシュフローの管理ができていなかった典型例です。

経営者の皆さんにお伝えしたいのは、現金を残す視点を持ってくださいということです。売上が上がっても、それがすぐに経費で消えていたら意味がありません。利益が出たら、そのうちの一部は税金として納め、残りは内部留保として会社に残す。それが、会社を強くする唯一の方法です。


決算書は「絶対視」するものではない

もうひとつ、私が大切にしている考え方があります。それは、決算書は絶対視するものではなく、経営の積み重ねを映す指標として冷静に受け止めるべきだということです。

決算書の数字が悪いと、経営者は落ち込みます。逆に、良いと安心します。でも、決算書はあくまで「結果」です。その結果に至るまでに、どんな経営判断をしてきたか、どんな努力をしてきたかが重要なのです。

私は、決算書を見るとき、数字の良し悪しだけでなく、「この経営者はどんな想いで事業をしてきたのか」を感じ取るようにしています。そして、次にどうすればいいかを一緒に考える。それが、税理士としての伴走だと思っています。

今回の事件の加害者は、決算書どころか、自分の所得すら申告していませんでした。これは論外です。でも、きちんと申告している経営者の中にも、「決算書の数字に振り回されている」方がいます。

大切なのは、数字を冷静に受け止め、次の一手を考えることです。そのために、税理士がいます。私たちは、経営者の不安を受け止め、現実的なアドバイスを提供する存在でありたいと思っています。


AI時代でも、人が会って話すことに価値がある

最近、AI技術の進歩で、「税理士の仕事はAIに取って代わられるのでは?」という声をよく聞きます。確かに、記帳代行や簡単な税務申告は、AIでもできるようになるでしょう。

でも、私は信じています。AI時代でも、人が会って話し、経営者の背中を押すことに税理士の価値が残り続けると。

なぜなら、経営は数字だけでは語れないからです。経営者の想い、不安、迷い、夢。それらは、対面で話さなければ伝わりません。AIは数字を処理することはできても、「この経営者を信じて、一緒に頑張ろう」と思うことはできません。

今回の事件の高齢女性も、おそらく「この人なら信頼できる」と思って、お金を渡したのでしょう。それは、AIには生み出せない、人間同士の信頼関係です。その信頼を悪用したことが、この事件の最大の罪です。

私たちは、その信頼を正しく受け止め、誠実に応えていかなければなりません。そうすることで、税理士という仕事は、AI時代でも必ず価値を持ち続けると信じています。


ギャンブルはやめましょう。税的にも不利です。

最後に、今回の事件から得られる実務的な教訓をひとつ。

ギャンブルはやめましょう。

競馬や競艇の払戻金は「一時所得」として課税されますが、はずれ券は経費になりません。つまり、当たったときだけ税金がかかり、負けたときは何も控除されないのです(業として行う場合を除く)。

今回の事件の彼も、もしシステムを使い大量購入、年間通じて回収率が100%を超えるようなどやっていれば、はずれ券も経費にできたかもしれません。でも、そうではなかった。だから、トータルで負けているのに、税金だけは発生してしまった。

これは、ギャンブルの税務上の不利さを象徴しています。そして、ギャンブルに依存すると、キャッシュフローが崩壊します。今回の事件がその証拠です。

経営者の皆さんには、堅実にキャッシュを残し、無駄な支出を避け、計画的に納税してほしいと思います。それが、会社を守る唯一の方法です。


まとめ:信頼を大切に、誠実に向き合う

今回の事件は、税理士や税務の世界に携わる者全員にとって、他人事ではありません。私たちは、信頼される立場にあるからこそ、その信頼を裏切ってはいけないのです。

税理士の本質は、最初に相談される存在であること。専門性だけでなく、人としての信頼感が選ばれる理由になること。そして、経営者の背中を押し、課題解決の起点となること。

私はこれからも、この思想を大切にして、経営者の皆さんと向き合っていきます。そして、AI時代でも変わらない、人と人との信頼関係を築いていきたいと思っています。

皆さんも、もし税理士を選ぶときは、専門性だけでなく、「この人は信頼できるか」を見てください。そして、もし今、信頼できる税理士がいないなら、ぜひ私たちのような「相談しやすい税理士」を探してみてください。

信頼は、すべての仕事の土台です。それを忘れずに、これからも誠実に歩んでいきましょう。