税理士法人の破産に学ぶ、これからの士業ビジネスモデルと顧問価値の本質

税理士法人の破産に学ぶ、これからの士業ビジネスモデルと顧問価値の本質

はじめに──税理士業界で起きている静かな危機

2026年5月、富山県高岡市を拠点とする税理士法人ホライズンが、富山地裁高岡支部より破産開始決定を受けました。負債総額は約1億6400万円。報道によれば、破産の主な要因は「同業他社との競争激化による収益性の低下」と「多額の損失計上」による資金繰りの悪化でした。

このニュースは、税理士業界に身を置く私にとって、決して他人事ではありません。それどころか、これから士業全体が直面するであろう構造的な課題を象徴する出来事だと感じています。

本記事では、税理士法人の破産事例を起点に、税理士業のビジネスモデルがどう変化しているのか、そしてこれから求められる税理士像とは何かについて、私自身の経験と価値観を交えながら考察していきます。

税理士業界を取り巻く環境変化──競争激化とテクノロジーの波

クラウド会計ソフトの普及がもたらした価格競争

ここ10年で、税理士業界の競争環境は劇的に変化しました。最も大きな要因の一つが、クラウド会計ソフトの普及です。freee、マネーフォワード、弥生会計オンラインなど、中小企業や個人事業主が自分で帳簿をつけられる環境が整ったことで、従来の「記帳代行」という業務の付加価値が大きく下がりました。

以前は、領収書や請求書を預かって手入力で仕訳を起こし、試算表を作成するという作業そのものが、税理士事務所の重要な収益源でした。しかし今では、銀行口座やクレジットカードと連携して自動で仕訳が作成され、リアルタイムで試算表が見られる時代です。顧問先自身で完結できる部分が増えた結果、報酬の相場も下がり、価格競争が激化しているのが現状です。

AI技術の進化と申告業務の自動化

さらに近年では、AIによる税務申告書の自動作成技術も実用化されつつあります。過去のデータや業種の傾向をもとに、ある程度の精度で決算書や申告書を作成できるようになってきています。

もちろん税務は判断が伴う業務であり、完全に自動化できるわけではありません。しかし「作業としての税務」の部分は、確実に機械に置き換わっていく流れにあります。つまり、作業量に応じて報酬をもらう従来型のビジネスモデルは、もはや成立しにくくなってきているのです。

税理士法人ホライズンの破産が示す教訓──多額の損失計上と資金繰り悪化

競争激化だけでは説明できない「損失計上」の意味

今回のホライズンの破産において、もう一つ注目すべきは「多額の損失計上」という記述です。競争激化による収益低下だけでなく、何らかの事業上の失敗や投資の失敗があった可能性があります。

税理士事務所の経営において、よくあるリスクは以下のようなものです。

  • 人員を増やしすぎて固定費が膨らむ
  • 顧問先を急拡大したが、品質が維持できず解約が相次ぐ
  • 新規事業や関連会社への投資が失敗する
  • 顧問先の倒産により報酬の未回収が発生する

どれも、事業を拡大しようとする過程で起こりがちなことです。そして、こうしたリスクは税理士事務所に限らず、すべての中小企業が抱えているものでもあります。

税理士自身が「キャッシュフロー経営」を実践できているか

私は顧問先に対して、常々「キャッシュを残すことが大事です」と伝えています。売上や利益も大切ですが、最終的に会社を守るのはキャッシュです。どれだけ黒字でも、資金繰りが回らなければ倒産します。

しかし、私たち税理士自身が、自分の事務所経営において同じ原則を守れているでしょうか? 見栄を張って豪華なオフィスを借りたり、不要なシステムに投資したり、人を増やしすぎたり——そういうことをしていないでしょうか。

私自身は「小さく強く、キャッシュ重視」という経営哲学を持っています。規模の拡大よりも、一つひとつの顧問契約の質を大切にする。無駄な固定費をかけず、身軽に動けるようにしておく。それが、長く安定して顧問先を支え続けるための基盤だと思っています。

ホライズンの破産は、私にとっても他山の石です。自分自身の事務所経営を見直すきっかけとして、真摯に受け止めたいと思います。

これからの税理士に求められる価値とは──作業から関係性へ

税理士の本質は「困ったときに最初に相談される存在」であること

では、これからの税理士はどうあるべきなのでしょうか。私が考える答えは明確です。それは、「経営者が困ったとき、最初に相談できる存在であること」です。

税務や会計の知識は、税理士として当然持っているべきものです。しかし、それだけでは差別化にはなりません。大切なのは、経営者との信頼関係です。

たとえば、こんなときに声をかけてもらえるかどうか。

  • 新しい事業を始めようか迷っている
  • 取引先が倒産しそうで不安だ
  • 銀行から融資を断られた
  • 家族のことで悩んでいる
  • 事業をたたもうか考えている

税務の話だけでなく、経営のこと、お金のこと、ときには人生のこと。そういう「よろず相談」ができる関係性こそが、税理士の本当の価値だと私は思っています。

専門性よりも「話しやすさ」が信頼を生む時代

もちろん、専門知識は必要です。でも、それ以上に大切なのは「この人なら話しやすい」と思ってもらえることです。

経営者は孤独です。誰にも相談できない悩みを一人で抱えていることが多い。そんなとき、気軽に電話できる、LINEで相談できる、会って話を聞いてもらえる——そういう距離の近さが、何よりも安心感につながるのです。

私自身、フランクで自然体な語り口を大切にしています。専門家として偉ぶるのではなく、人間対人間として向き合う。そのスタンスが、長く信頼される関係を作ると信じています。

顧問契約とは何か──それは業務契約ではなく信頼の証

月額顧問料の本質的な意味を再定義する

税理士の顧問契約は、多くの場合、月額制です。しかしその報酬の対価は何でしょうか?

従来は「毎月の記帳代行」「試算表の作成」「年1回の決算・申告」といった作業ベースで考えられていました。しかし、これらがどんどん効率化・自動化されていく中で、顧問料の根拠が揺らいでいるのが現状です。

私は、顧問契約とは「いつでも相談できる安心感」を買ってもらうものだと考えています。税務や会計の正確性は当然として、それ以上に「何かあったらすぐに相談できる」「一緒に考えてくれる人がいる」という安心感こそが、月々の顧問料の対価なのです。

つまり、作業量ではなく関係性の質に対して報酬をいただく——そういうビジネスモデルへの転換が求められていると思います。

社長の意思を尊重しつつ、リスクは伝える誠実さ

また、税理士として大切にしたいのは「社長の意思を尊重すること」と「リスクをきちんと伝えること」のバランスです。

社長が「こうしたい」と言ったとき、頭ごなしに否定するのではなく、まずはその想いを受け止める。そのうえで、税務上のリスクや資金繰りへの影響を冷静に説明し、判断材料を提供する。最終的な意思決定は社長がするものですが、その判断を支える情報と視点を提供するのが、私たち税理士の役割だと思っています。

節税の考え方──効果があり、正当でオーソドックスな方法を状況に応じて

節税と会社を強くすることは同じではない

節税の相談もよく受けますが、私が常に伝えているのは「税金を減らすことと、会社を強くすることは同じではない」ということです。

節税のために経費を使いすぎて、手元のキャッシュが減ってしまっては本末転倒です。大切なのは、税金を払った後でもしっかりキャッシュが残ること。そのうえで、効果があり、正当でオーソドックスな節税を、会社の状況に応じて行うべきだと考えています。

過度な節税スキームに頼ったり、グレーゾーンに踏み込んだりするのは、リスクが高すぎます。むしろ、適正に税金を納めながらも、しっかりとキャッシュを残していく経営が、長期的には会社を強くします。

決算書は「次に進むための指標」として見る

決算が赤字だったり、思ったより利益が出なかったりすると、社長は落ち込みます。でも私は、決算書を重く受け止めすぎないでほしいと思っています。

決算書はあくまで過去の結果です。大切なのは、その数字から何を読み取り、次にどう動くか。決算書は「次に進むための指標」として捉え、前向きに活用するべきものです。

そういう視点を提供できることも、税理士の大切な役割だと思います。

AI時代でも残る税理士の価値──会って話し、背中を押すこと

テクノロジーに代替されない「人間対人間」の価値

AIがどれだけ進化しても、人間にしかできないことがあります。それは「会って話すこと」「相手の表情を見ること」「言葉にならない不安を察すること」です。

経営者が本当に求めているのは、正確な数字だけではありません。「この判断で大丈夫でしょうか?」と聞かれたとき、「大丈夫ですよ」と背中を押してくれる存在です。

それは、AIには絶対にできないことです。

これからも「あの人に聞いてみよう」と思われる存在でありたい

私は、これからも「あの人に聞いてみよう」と思われる税理士でありたいと思っています。

税務のことも、お金のことも、経営のことも、ときには家族のことも——どんな相談でも受け止められる、そんな存在であり続けたい。そのために、専門知識を磨き続けることはもちろん、人として誠実であること、フランクであること、相手の立場に立って考えることを大切にしています。

まとめ──税理士業の未来は「信頼」にある

税理士法人ホライズンの破産というニュースは、私たちに多くのことを教えてくれます。

  • 作業ベースのビジネスモデルだけでは、もう持続できない
  • 競争激化の中で、価格ではなく価値で選ばれる必要がある
  • 税理士自身が、自分の事務所経営を健全に保つ努力が必要
  • これからの税理士に求められるのは、専門性以上に「信頼関係」である

テクノロジーの進化は止められません。でもだからこそ、人間にしかできない価値——経営者に寄り添い、話を聞き、一緒に考え、背中を押すこと——が、これまで以上に重要になっていくと私は信じています。

小さく強く、キャッシュを大切にしながら、一人ひとりの顧問先と深く向き合う。それが、私の目指す税理士の姿です。

そして、これからも「困ったときに、最初に相談される存在」であり続けたいと思います。


■参考記事
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/tut/2656339?display=1