企業型DCとiDeCoの併用問題、税理士が中小企業経営者に伝えたいこと

企業型DCとiDeCoの併用問題、税理士が中小企業経営者に伝えたいこと

2026年12月から企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCo(個人型確定拠出年金)の拠出限度額が引き上げられる制度改正が予定されています。従業員にとっては老後資金形成の選択肢が広がる良いニュースですが、中小企業の経営者や人事担当者からは「従業員に聞かれても答えられない」「そもそも自社の制度がどうなっているか分からない」という声をよく耳にします。

この記事では、税理士として日々中小企業の経営者と向き合う立場から、企業型DCとiDeCoの併用問題について、実務的な視点でお伝えします。

制度が複雑になるほど「相談相手」の価値が高まる

企業型DCとiDeCoの併用については、朝日新聞の記事でも詳しく解説されていますが、正直に言って、この制度は複雑です。

「企業年金の掛け金が月5万円を超えているか」
「マッチング拠出をしているか」
「そもそも自社の企業年金制度がどうなっているのか」

これらを正確に把握している従業員は、実はそれほど多くありません。経営者や人事担当者も同様です。私自身、お客様から「うちの社員にどう説明すればいいの?」と相談されることが頻繁にあります。

制度が複雑化すればするほど、大切になるのは「誰に聞けばいいか分かっている」という安心感です。これは、税理士としての私たちの出番でもあります。

中小企業にとっての企業型DCとiDeCo

中小企業にとって、企業型DCは福利厚生の一環であると同時に、経営者や従業員の老後資産形成を支援する重要な制度です。しかし、導入や運用には手間がかかり、従業員一人ひとりに制度の詳細を説明するリソースがないのが現実です。

一方、iDeCoは個人が自分で加入する制度ですが、「企業型DCと併用できるのか」「どちらが得なのか」といった疑問は、会社の制度設計とも密接に関わります。従業員が自己判断するには情報が足りず、かといって会社がすべて面倒を見るのも難しい——そんなジレンマがあります。

2026年12月の制度改正で何が変わるのか

今回の制度改正のポイントは、拠出限度額の引き上げです。

現行制度(2026年11月まで)

  • 企業年金ありの会社員:iDeCoの上限は月2万円(企業年金の掛け金によって変動)
  • 企業年金なしの会社員:iDeCoの上限は月2万3,000円

改正後(2026年12月以降)

  • 企業年金ありの会社員:「月6万2,000円 – 企業年金の掛け金」がiDeCoの上限(月2万円の制限が解除)
  • 企業年金なしの会社員:iDeCoの上限は月6万2,000円

この改正により、より多くの従業員がiDeCoを活用しやすくなります。ただし、「自動的に掛け金が上がるわけではない」「自分で手続きが必要」という点は見落とされがちです。

経営者がおさえておくべき3つのポイント

1. 自社の企業年金制度を把握する

まずは自社がどのような企業年金制度を導入しているのかを正確に把握することが第一歩です。

  • 企業型DCのみか
  • 確定給付企業年金も併用しているか
  • マッチング拠出は導入しているか
  • 従業員の掛け金はいくらか

これらの情報を整理しておくことで、従業員からの質問にも的確に答えられます。

2. 従業員への情報提供は「相談先」を示すだけでもよい

すべてを経営者や人事が説明する必要はありません。「詳しくは○○に聞いてください」と、相談先を示すだけでも十分です。

大切なのは、「困ったときに誰に聞けばいいか分かっている」という安心感を提供することです。

3. 節税効果だけでなく「継続できるか」を重視する

iDeCoには確かに節税効果があります。年収500万円程度の方が年27万6,000円を拠出すれば、年間約5万5,000円の節税になります。

しかし、途中で手続きが面倒になって放置してしまったり、掛け金の変更方法が分からず諦めてしまったりするケースも少なくありません。制度を活用するには、継続できる環境とサポートが必要です。

税理士として大切にしていること

私が顧問先の経営者の方々にいつもお伝えしているのは、「とりあえずなんでも聞いてください」ということです。

企業型DCやiDeCoの話に限らず、税金のこと、経営のこと、プライベートなこと、ちょっとした疑問でも構いません。まず相談してもらえる関係でいたい。その後本当に解決を望むのであれば、適切なところに繋ぐ。それが私の信念です。

制度が複雑であればあるほど、専門家の役割は大きくなります。ただし、それは「難しいことを難しく説明する」ことではありません。身近な言葉で、その人の状況に合わせて、分かりやすく伝えることが大切だと思っています。

企業型DCとiDeCoの併用、結局どうすればいいのか

結論から言えば、「その人の状況による」というのが正直なところです。

企業型DCのみで良いケース

  • 勤務先の企業型DCの運用商品に満足している
  • マッチング拠出で上限まで拠出している
  • iDeCoの手続きや手数料が負担に感じる

iDeCoのみが適しているケース

  • 企業型DCの運用商品に不満がある
  • 50代後半で企業型DCの加入期間が短い
  • 自分で運用商品を選びたい

併用が良いケース

  • 企業型DCの掛け金が少なく、自己負担で増やしたい
  • マッチング拠出が導入されていない
  • 企業型DCとiDeCoの両方のメリットを享受したい

どの選択が最適かは、その人の年齢、収入、勤務先の制度、今後のキャリアプランなどによって変わります。だからこそ、一人ひとりに寄り添った相談が必要なのです。

制度改正をチャンスに変えるために

2026年12月の制度改正は、従業員にとっても企業にとってもチャンスです。しかし、そのチャンスを活かすには、正しい情報と適切なサポートが不可欠です。

経営者の皆さんには、「すべてを自分たちで抱え込まない」ことをお勧めします。税理士、社労士、DCプランナー、企業型DC導入サポート企業といった専門家を上手に活用してください。

そして従業員の皆さんには、「分からないことは恥ずかしいことではない」と伝えたいです。誰もが最初は分からないものです。まずは信頼できる相談相手を見つけて、気軽に聞いてみることから始めてください。

さいごに

私は税理士として、「困ったときに一番最初に相談される存在」でありたいと常に思っています。それは税務や会計の話だけでなく、経営のこと、お金のこと、時には人生の悩みまで含めてです。

企業型DCとiDeCoの併用問題も、その一つです。制度が複雑だからこそ、フランクに相談できる関係性が大切。そして、相談されたときには、その人の背中を押せるような言葉を返したい。

もし今、企業型DCやiDeCoのことで悩んでいる経営者の方、従業員の方がいらっしゃったら、ぜひ一度、信頼できる専門家に相談してみてください。きっと、前に進むヒントが見つかるはずです。


参考記事:
企業型DCとiDeCoは併用できる? 掛け金上限は? 専門家が解説
https://www.asahi.com/relife/article/16589254